現在、Appreciative Inquiryを提唱した、クーパーラーダーの“Appreciative Inquiry (David L. Cooperrider, Diana Whitney)” を輪読中ですが、そこに導入例として挙げられたカナダの大手会計事務所「Leadshare」の実施例の報告書を取り上げます。
Organization Development Network (OD Network)」:1964年に創設された組織開発分野で世界最大規模の国際的な実務家・研究者ネットワーク団体(学会)の発行するOD Practitioner 2015で掲載された”An Appreciative Inquiry Into the Factors of Culture Continuity During Leadership Transition (A Case Study of Leadshare)“に報告されています。
筆者のメアリー・アン・レイニー博士は、イリノイ州のComEd社で組織開発部門のディレクターを務めています。ケース・ウェスタン・リザーブ大学で組織行動学の博士号を取得し、戦略的計画、チームビルディング、アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)、職場のダイバーシティ、合併後の統合、エグゼクティブ育成を専門分野として、15年以上にわたり外部コンサルタントとしての経験を積んできました。これまでに、アメリカン・エキスプレス・バンク、BFグッドリッチ、シンシナティ・ガス・アンド・エレクトリック、クリーブランド美術研究所、ジョージア州家族サービス局、トゥーシュ・ロス(現デロイト・トゥーシュ)カナダ、クリーブランド大学病院など、数多くのクライアントに対してコンサルティングを行っています。所属団体は、ゲシュタルト研究所、NTL応用行動科学研究所、アカデミー・オブ・マネジメント(経営学会)などです。
“Appreciative Inquiry (David L. Cooperrider, Diana Whitney)” では、「カナダの大手会計事務所「Leadshare」において、伝説的なマネージング・パートナー(最高経営責任者的立場の統括パートナー)の後継者選定(executive succession=経営トップの世代交代・継承)にAIが活用されました。」とあります。
A Case Study of Leadshare by Mary Ann Rainey
Leadshareとは
カナダの会計士や経営コンサルタント約350名から成るパートナーシップ組織「LeadShare(LS)」は、起源は19世紀半ば、カナダという国が誕生した時期にまで遡ります。過去25年間でLeadShareはクライアント向けサービスの幅を広げ、二桁成長を遂げるための組織変革を断行し、現在ではカナダ有数の会計事務所としての地位を確立しています。
後継者育成計画
今後3年間で2人の主要な幹部職が交代することを見越し、組織は業務への支障を最小限に抑え、来るべき新時代に向けた指導体制を整えるための後継者育成計画を策定しました。
LeadShareは「Roundtable(ラウンドテーブル)」という取り組みを開始しました。これは、階層にとらわれないリーダーシップ、リソースの共有、そして部門横断的なネットワークを提唱するものです。このテーブルの指針となるのが「アプリシエイティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry:AI)」です。
Appreciative Inquiry
アプリシエイティブ・インクワイアリー(以降AI)は、企業の存在における「生命力を与える」力を選択的に探し出し、際立たせ、光を当てることを目指す、組織研究の一形態です。
1.「アプリシエイティブ(肯定的・価値を認める)」な探究には、不可欠な2つの問いがあります。
2.AIを導く4つの原則から、組織に活力を与える力の探求は、
3.後継者育成のツールとして、最も重要なことは、後継者育成におけるアプローチの転換です。
ラウンドテーブル(Roundtable)
LeadShare社において展開された、大規模な組織開発の中で、「Roundtable(ラウンドテーブル)」は中核となる活動です。6ヶ月間にわたって実施され、その後複数年にわたりました。
ラウンドテーブルとは、階層にとらわれないリーダーシップ、リソースの共有、そして部門横断的なネットワークを作る取り組みです。
この取り組みの目的は、先ず次世代のリーダーたちに対し、企業の歴史や伝統、そして成功の要因について理解を深めてもらうことにあります。つまり参加者には、「文化の担い手(エージェント・オブ・カルチャー)」となることが期待されています。
ラウンドテーブル参加者として選ばれた40名のパートナーは、
・AIの実施方法について、ビデオを用いた指導を受けます
・同社のパートナー全員を対象に、自由回答形式の公式なインタビューを実施します
・インタビューから得られたデータに収束的妥当性を与えるべく分析、調査報告します
・ラウンドテーブルにおいて、リーダーシップの継承というプロセスに取り組みます
以上から、ラウンドテーブルの主な目的である「皆で望む未来」を描くのを支援し、そのビジョンを共同で推進します。具体的には、意図を現実と信念へ、そして実践へと確実に結びつけるような形で、そのビジョンを実現していきます。
データ収集(Collection of Data)
18ヶ月間にわたり、社会科学の手法を用いて700ページを超えるデータが収集されました。
ラウンドテーブルの40名が、同社のパートナー全員を対象に、自由回答形式の公式なインタビューを実施しました。各インタビューの所要時間は約2時間で、社内での経験に加え、パートナーシップ、勝者となるという決意、多様性、合意形成による意思決定、可能性/ポジティブ・シンキング、人材が卓越した成果を上げるための条件といった質問項目は、外部コンサルタントが組織の運営委員会メンバーと協力して作成しました。
これまでの会社の歴史的資料(報告書、記事、演説、ニュースレター、未公刊の論文、および覚書)を検討し、その内容を分析した。
オフィスへの訪問、委員会、およびリトリートに参加し、それらを通じて、同社の企業文化を理解するための直接的な体験的知見を得ました。
インタビューから得られたデータに収束的妥当性を与えるべく、調査検討が実施されました。この調査では、「7Sフレームワーク」(Peters & Waterman, Jr., 1982を参照)に基づき、6つのトピック領域がまとめられました。評価尺度は(1) 調査項目の内容が、企業として今後も追求すべき重要な「理想」をどの程度表していると感じるか、および (2) その調査項目の内容が、実際の業務にどの程度反映されているか。をリッカート尺度で行いました。
データの分析(Analysis of Data)からテーマの導き
信頼性と客観性を確保するため、著者以外に2名の独立した研究者がデータの分析を行い、いくつかのテーマが導き出されました。
- The Feeling of Unity:一体感、これは全体的な連帯感を指します。
- Respected, Responsible, Inspirational Leader-ship:尊敬と信頼を集め、責任ある行動で人々を鼓舞するリーダーシップ
- Justice and Equality:公正と平等、「パートナー1人につき1票」という意思決定の仕組み、公正さ、選択の自由、互いへの敬意、開放性、そして互いを思いやる心に基づいた環境を醸成します
- People Development and Professional Competence:人材育成と専門的能力、絶え間ない学習とパートナーの育成、専門分野において高い能力を備えているだけでなく、優秀な人材を惹きつけ、定着させ、彼らに個人的な誇りを抱かせる能力も兼ね備えていなければなりません。
インタビューと分析により「現状の最良の部分に目を向けることで、あり得る未来への想像が掻き立てられる」の探求から夢へのAIらしい流れです。
主要なテーマと選定データ(Major Themes with Selected Data)
- 1.The Feeling of Unity
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すべての拠点で組織全体の一員であると実感させることに非常に長けており、常に一体感があります。「one firm(一つの組織)」という姿勢が協力関係を促進し、成功の成果を分かち合うことが可能になっています。そしてマネージング・パートナーが毎月発信するメモを通じて全員の一体感が醸成されます。
- 2.Respected, Responsible, Inspirational Leadership
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リーダーシップとは、一方的に指示を下すことではありません。「コミュニケーション」が重要な鍵となります。最終的な決定を下す前に、パートナーに対して何が課題なのかを伝え、彼らからフィードバックや意見を求めることが大切です。オフィスがどれほど小さくても、あるいはカナダの中心部からどれほど離れた場所にいたとしても、誰かがあなたの言葉に耳を傾けており、あなたの意見や提案が重視されているのです。
- 3.Justice and Equality
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LeadShareでは「平等」が原則です。パートナーは対等な立場にあり、一人一票の議決権を持ちます。パートナーに退任を促す困難な道のりにおいても、このファームはどこよりも誠実かつ公平だったと言えます。訴訟に敗訴した際、当該案件に関与したパートナーを他のパートナーたちが一丸となって支え、団結した姿は非常に印象的でした。
- 4.People Development and Professional Competence
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人材育成と専門的コンピテンシー、リーダー層は主体的な自己研鑽を主導し、パートナーもその責任を担っています。若手パートナーを信頼しており、彼らのマネジメント能力を伸ばすための取り組みも行っています。
文化の継続性の要因(The Factors of Culture Continuity)
テーマ別の枠組みから11の命題が導き出されました。
- コミュニケーション、合意形成、「1パートナー1票」の原則、対面での交流、パートナーの育成・評価、利益の分配、そしてユニット配分の機密保持により、「パートナーシップ」の理念を実践することが、公平感と信頼感を支えます。
- 当社は、高品質かつ迅速で多様な、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供し続け、顧客に最高の価値を提供します。
- 企業のビジョンは、日々の行動や業務の遂行を通じて伝えられます。
- 共同所有という概念は、各パートナーが企業の将来に対して責任を負うことを求めています。
- リーダーシップは、専門的サービスや管理プロセスにとどまらず、才能やイノベーションを育成する能力も含みます。
- あらゆる階層の人々が、専門能力や顧客サービス・スキルを磨きます。最新のテクノロジーに関する知識も含まれます。
- 当社は、専門職として成長していく優秀な人材を、あらゆる分野から惹きつけ、採用し、定着させます。
- パートナーシップは、知的で勤勉、精力的、優れた対人スキル、障壁を好機へと変える勇気を持つ人材を惹きつけ、育成し、定着させています。
- 当社は、サービス、スキル、人材の多様性を高め、事業基盤を拡大するために、専門性の高い企業の合併やサービス企業の買収を積極的に推進し、著名な専門家を採用します。
- 国内外の双方において収益と成長を実現するため、前向きかつ革新的な思考を活かし、利用可能な最新の技術力や通信機能を活用します。
- パートナーは、人材、クライアント、サービスといった資産を構築し、レガシーを残す責任を負います。
Conclusion
- 組織が内部的な有効性と外部への適応力を維持しようとするならば、自らの根本的な価値観を把握し、それに基づいて人材を評価・配置するためのテンプレートを構築する必要があります。「AI」は、そうした価値観を浮き彫りにし、組織内の個人にとって何が重要かについて合意を形成するのに役立つ手法の一つです。
- AIが、個人が重んじる価値観を浮き彫りにし、それらを再定義したり優先順位を見直したりすることは「パターンの強化」を図るプロセスであると言えます。それは、単なる価値観の再定義にとどまらず、組織の理想を引き出し、理想を実体化するよう意図されています。さらに、個人の価値観と組織(システム)の価値観とのつながりを、人々が確実に認識できるように設計されています。
- AIは組織文化を醸成することも明らかになりました。共通の基盤や価値観に働きかけることで、AIはメンバーのコミットメントを最大限に引き出し、自分たちの取り組みに対する自信を高めます。また、AIは個人が「何を実現したいのか」を明確にするのを助けるとともに、組織の再生の源となる連帯感を促進します。
- AIは環境への適応を可能にすることも明らかになりました。変化する環境の要求に対応するために必要な最新の技術や専門知識、知見を新入社員が持ち込む可能性が高い専門職組織において、優れた教育機関から人材を採用・育成し、環境の変化を敏感に察知できる人材を迎え入れ、価値観の共有は組織にとって成長のプロセスとなるでしょう。
- その一方で、採用や離職が少ない組織においてAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)を導入すると、組織の同質化や時代遅れの価値観の強化を招き、組織の存続を脅かす恐れがあります。組織文化としては構成員にとって極めて満足度の高いものであっても、環境への適応力に欠ける場合があるからです。その結果、AIは古く時代にそぐわないシステムや価値観を強化し、環境の変化に対する認識を鈍らせてしまう可能性があります。
- AIを後継者選定の手法として用いる場合、常に懸念されるのは、「有望な人材」として選抜されなかった人々の意欲を削いでしまう恐れがあるという点です。また、次代のリーダーとして特定された人物は、果たして真のマネージャーなのか、それとも異端者なのかという、極めてもっともな疑問も生じます。もしそのシステムが構成員の抱く理想を反映したものであるならば、組織は「最大の無知」へと突き進む道を歩んでいる可能性があります。これに対し、既存の価値観を支持する人々を後継者選定プロセスに関与させる別のアプローチをとれば、こうした弊害に対するより優れた防波堤や保護策となるかもしれません。
結論として、アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)が、集団的かつ協働的な取り組みに多大な貢献をもたらすこと、そしてそうした場面において最も理想的な手法となり得ることは明らかです。また、専門的な文化を維持するにはその創出時と同等の労力を要するため、根本的な変化が起こる可能性の低い環境においてこそ、このインクワイアリーという手法が適しているとも言えるでしょう。カナダのLeadShareのパートナーたちほど、そのことを熟知している人々はいないはずです。
以上です。





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