いくつかの示唆 “Some Implications“
重要な省略(意図した除外) “Significant Omissions“
本論のセラピーの必要条件として提示した項目(人格変容の六条件)において、そこから省略されている要素として、従来セラピストたちが、心理療法において不可欠であると振る舞ってきた条件が数多く存在します。ここで、意図した除外したケースをいくつか挙げています。
例えば、「神経症者にはある方法で、精神病者には別の方法で接するべきだ」とか「強迫性障害の患者には特定の治療的条件を、同性愛者にはまた別の条件を用意しなければならない」といった考えが臨床の現場において広く浸透しています。(注:本論文の提出した当時です。)
そういった認識の中で、
本論文のような「心理療法の本質的な条件は単一のかたちで存在する」という概念を提示することについて、ロジャーズは「恐れと戦き(おののき)」を覚えると語っています。
しかし、同時に彼は
建設的なパーソナリティの変化が生じるあらゆる状況に当てはまる条件を述べ、経験的に検証してみれば、実際には不可欠ではないことが明らかになる
と宣言しています。そして、
「もし個々の心理療法にはそれぞれ異なる条件が必要であると判明する可能性もあるでしょう。しかし、そうしたことが実証されない限り、私は、いかなる種類の効果的な心理療法であっても同様の人格および行動の変化をもたらし、そこには単一の前提条件が必要であるという仮説を立てているのです。」
としています。つまり、彼の姿勢が「反証が無い限り、この単一条件は成立する」という科学的性質に立脚していることを示しています。
最後に、かなり厳しい言葉をこれまでのセラピストに投げかけています。
「クライエントの為と言いながら自分を守るため」自分にも当てはまることを思い起こします。
この理論が持ちうると考える有用性 “Is This Theoretical Formulation Useful?”
ロジャーズは、この理論が持ちうると考える有用性について、建設的な人格変容を目指す場面は、心理療法だけに限られるわけでは無いと述べています。
例えば、
- 産業界におけるリーダーシップ訓練や軍隊でのリーダーシップ訓練のプログラムも、しばしばそうした変容を目指しています。また、教育機関や教育プログラムも、知的スキルの習得だけでなく、個性や人格の育成を目標とすることが少なくありません。
- 地域社会の諸機関は、非行少年や犯罪者の性格および行動の変容を目指しています。こうしたプログラムは、提示された仮説を広範に検証する機会を提供するものとなるでしょう。(彼のセラピストとして最初の仕事に関連する所です。)
- クライエント中心療法においては、「感情の反映(reflecting feelings)」という技法について記述や論評がなされてきましたが、この理論に照らせば、この技法は決して療法に不可欠な条件ではなく、セラピストが繊細な共感や無条件の肯定的関心を伝えるための経路として機能しうると言えます。
- 自由連想、夢分析、転移分析、催眠、ライフスタイルの解釈、暗示といった精神分析の技法には、治療上の本質的な価値は認められす、これらの技法は我々の定式化された本質的条件を伝えるための経路となり得るものではあります。
まとめ “Summary“
より広範な理論的文脈に基づき、
- 建設的なパーソナリティ変容のプロセスを開始させるために必要かつ十分な条件として、六つの条件が提示された。
- 各条件について簡潔な説明がなされるとともに、研究目的のためにそれらをいかに操作的に定義し得るかについての提案がなされた。
- この理論が研究、心理療法、および建設的なパーソナリティ変容を目的とした教育・訓練プログラムに対して持つ意義が示された。
- これまでの、心理療法に不可欠であると一般にみなされている条件の多くが、この理論の観点からは本質的ではないことが指摘された。
以上です。これから行う輪読会の最終回で、新たな気づきがあれば、修正していきたいと思います。
個人的感想は、人格変容するのに必要かつ十分な条件のみ提示するというシンプルな形式を選び、より反証しやすいようにしている科学的で謙虚な姿勢と、広範囲な適用を語りこれまでの臨床にたいする大胆かつ挑戦的な姿勢というアンビバレントな特徴を有する論文と思いました。ただ具体例は不一致に関する二例だけで、本条件による変容例は示されてはいません。つまり実証研究の報告については、今後にゆだねたように見受けました。ある意味割り切りが良い・・・





コメント