前回続き、輪読中の“Appreciative Inquiry (David L. Cooperrider, Diana Whitney)” の中の導入例に関する論文を紹介します。今回は、ハンター・ダグラス(Hunter Douglas)社の例です。 同社は、会社のシステム全体にAIを導入した米国初の企業の一つで、組織変革へのアプローチとしてAIに注目した「次世代」のリーダーやコンサルタントたちに、大きな指針を与えました。著者のアマンダ・トロステン・ブルームさんは、社内でのAIプロジェクトの主導役を務める一方で、「シャドウ・コンサルティング」としてダイアナ・ホイットニーとデビッド・クーパーライダーの協力を受け、この論文を執筆しました。
“Evolving Approaches to Design at Hunter Douglas Window Fashions Division”
本論文は、『AI Practitioner』のSpring 2017 Volume 19 Number 2に報告されていました。AI Practitionerとは、AIや組織変革、リーダーシップ、人材育成に関する最新研究、事例研究、実務紹介などを扱う査読付きの国際専門誌です。AIの提唱者であるクーパーライダーが所属するシャンプレイン大学の「David L. Cooperrider Center for Appreciative Inquiry」や、国際的なコンサルティング・研究組織「Kessels & Smit, The Learning Company」等のパートナーシップにより運営されています。
ハンター・ダグラス(Hunter Douglas)社とは
コロラド州ブルームフィールドに拠点を置くハンター・ダグラス(Hunter Douglas)社のウィンドウ・ファッション部門は、米国における窓装飾製品の主要メーカーです。10年にわたる急激な成長を経て、1997年、同社の経営陣は、急速に拡大する従業員の能力の育成に「AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)」に基づく組織文化変革の取り組みを開始しました。
May 2003
ハンター・ダグラス社の事例は、AIの取り組みがいかにして時間の経過とともに展開されていくか示してくれる優れた例です。5年にわたる期間を通じて展開された、多様な形での「デザイン(Design)」に焦点を当てます。従来は「欠陥や問題の解決(deficit-based)」を前提としたデザイン手法と結び付けられていたツールが、AIの哲学と実践を真摯に追求する組織を支援するために、いかにして応用され得るかについても明らかにします。
Wave 1: Designing the preferred culture フェーズ1:理想とする文化の設計
AIに関する最初の取り組みである「Focus 2000」は、以下の3つの目的を持っていました。
- 組織の壁や階層構造を超えた協力、信頼、相互支援を促進する。
- 現在および将来のリーダーシップを構築する。
- 創造性とコミットメントを高める。
Focus 2000とは、サミットで最高潮に達する、システム全体を対象とした4D対話でした。1日半にわたる探求(Discovery)と夢(Dreaming)の後、サミット参加者100名全員が、8つの異なるテーマについて刺激的な提案(Design)を作成しました。最初の5つのテーマ(下記)は、探求フェーズ(Discovery)で肯定的に取り上げられたテーマ(Affirmative Topics)と同じもので、参加者たちが新たな文化にとって如何に重要であるか判ります。
それは、
- People(人材)
- Education(教育)
- Quality of work life(職場環境の質)
- Morale and recognition(士気・評価・承認)
- Communication(コミュニケーション)
残りの3つは、ワトキンスとモアが提唱した「グース・エッグ」であげられる「リーダーシップ」「顧客」「製品」のいわゆる同社の「社会構造」の構成要素です。
そこでの展開は、
- 参加者は、自らの関心が最も高いトピックに取り組むべく、自主的にグループを形成しました。
- 各グループは、得られたデータを検討し、「設計案(Design)」を起草しました。その後、参加者全員が「ギャラリー・ウォーク」という活動を通じて、これら8つのデザイン・ステートメントすべてに目を通しました。
- 入れ替わりで各「設計案(Design)」を検討するグループは、探究の過程で学んだことの精神を最もよく表しているキーワードやフレーズに下線を引いていきました。
- そのステートメントを「壁の向こう側へ(次の段階へ)」と推し進める助けとなるような、新たな言葉やフレーズ、アイデアを提案しました。
- 他の7つのステートメントすべてに対してフィードバックを行った後、
- 彼らはもとの執筆グループに戻り、自分たちの資料を最終的に仕上げました。
以下は、導き出された8つのテーマのうちの3つです。
| 教育 (Discovery Topic) | コミュニケーション (Discovery Topic) | 顧客関係 (社会構造の構成要素) |
| 教育とトレーニングは、ハンター・ダグラスの礎です。社員は会社とパートナーシップを築きながら、内面的な目的意識を見出していきます。そしてその意識が、個人としても職業人としても自らの可能性を最大限に発揮するために必要な強さと自信を育むのです。学習センター「ハンター・ダグラス・ユニバーシティ」にて以下のプログラムを提案します。 • メンタリング • 顧客向けトレーニング • キャリアカウンセリング • スキル開発 | ハンター・ダグラスは、従業員、ビジネスパートナー、そして地域社会との間で、オープンかつ誠実で質の高い、継続的なコミュニケーションを求めています。私たちはすべてのステークホルダーに対し、あらゆるアイデアや意見を表明し、それらが真摯に耳を傾けられる機会を提供します。 •あらゆる文化や言語の枠を超え、情報やアイデアの継続的な双方向のやり取りを促進する • 会社、その歴史、および事業環境に関する適切な情報を広く公開し、「全体像」を積極的に共有する •最も効果的なコミュニケーション •ツールを最大限に活用する 効果的なコミュニケーションの実現に向け、各個人が主体性を持ち、責任を果たすことを求める | お客様は、ハンターダグラスにとっての生命線であり、未来そのものです。当社は、以下の領域においてお客様の期待を理解し、それを上回る価値を提供することで、お客様に喜びをお届けします。 • 製品の品質と革新性 • 顧客サービスとサポート • 顧客との関係構築 • 教育・研修 • 地域社会への貢献 • 約束の履行 私たちは、既存および新規の関係を育むことで、顧客基盤を拡大しています。取引のしやすさゆえに、お客様は喜んで私たちとのビジネスを選んでくださるのです。 私たちは、他者が追随すべき「ベンチマーク(指標)」を確立しています! |
こうした「デザイン」に関する指針やその他の指針は、様々な短期的な取り組みを促すきっかけとなりました。しかしそれだけでなく、「コミュニケーション」や「顧客関係」に関する指針は、「4Dサイクル」の重要な継続的改善プロセスを誘発することにもなりました。
Wave 2: Designing a shared vision for the future
- 運用の枠組み: 1998年より、事業部門とビジネスユニットを交互に対象とする2年サイクルの全社的戦略策定プロセスを開始しました。
- 対話と情報共有: 企業の高度な情報をオープンに共有した上で、リーダー層以外を含む50〜150名規模のサミットを実施。ベストプラクティスの発見、強み(ポジティブ・コア)の分析、未来の構想を行いました。
- 設計(Design)と実行: サミットでの対話を通じて数個のテーマを選定・草案化し、全体からの肯定的なフィードバックを経て基本方針(デザイン・ステートメント)や戦略・目標へと最終化し、サミット後1ヶ月以内に戦術計画や予算を策定しました
- 継続と自立: 四半期ごとの集まりで進捗共有や成果の祝福を行い、1年後には外部ファシリテーターなしで社員同士が自主運用できる体制を確立しました。
Wave 3: Designing enhanced business processes
第3段階の調査において、同社は継続的な業務プロセス改善のためのAIベースのアプローチの構築に注力しました。
本取り組みの第一段階は、「ポジティブ・チェンジ・ネットワーク(Positive Change Network)」を改良したものでした。これには、2か月にわたって実施された3種類の研修プログラム(各2~3日間)が含まれ、様々な職種の従業員約100名が参加しました。研修の参加者は、まず「プロセス・エクセレンス(業務の卓越性)のための7ステップ・モデル」を学び、続いてそれを特定の業務プロセスに適用しました。
- 研修の参加者は、まず「プロセス・エクセレンスのための7ステップ・モデル」を学び、続いてそれを特定の業務プロセスに適用しました。
- 研修の第1段階は、テーマの選定に焦点が当てられました。参加者は、自らの関心に基づいて取り組むテーマごとに自主的にグループを形成し、その課題に対して有益な貢献ができそうな人物(研修参加者以外も含む)を特定した上で、正式なプロセスチームを編成しました。
- 第2段階は「発見(Discovery)」に重点を置いたものでした。新たに編成されたプロセスチームは、アプリシエイティブ・インタビュー、ベンチマーク、アンケート調査、そして従来型のプロセス・マッピングを組み合わせて活用する手法を学び、社内外の多様なステークホルダーを巻き込んで業務の調査・分析に取り組みました。数週間にわたって行われたこの調査活動は、将来的な設計において活用すべき「成功の鍵となる要因」を特定するという成果をもたらしました。
- 第3段階は、各チームが「夢(Dream)」のプロセスに取り組み、自社の業務プロセスが完璧な状態であればどのようなものになるかを思い描きました。続いて、目指すべき業務プロセスの設計をAIを活用して行いました。その過程では、何が有効かについての知見を共有し、どのような選択が理想の状態へとつながるかを共に検討し、改善されたプロセスのマップを作成しました。
Delivery phase
- 改善された業務プロセスのテストおよび最終的な導入を含む「デリバリー(Delivery)」フェーズは、トレーニング期間を終えた後も数ヶ月にわたり継続されました。
- 完了後、最終的なプロセス・マップが各ワークステーションに掲示され、それらはトレーニング、点検、そして継続的な改善の基盤となりました。
- これらの研修の参加者は、最後のワークショップから約3ヶ月後に再び集まり、学びを共有するとともに、それまでの成果を称え合いました。
- その後18ヶ月をかけて、社内のトレーナーたちがこのプロセスを全従業員へと展開していきました。チームから生まれる新たな着想や適応の動きを、継続的な改善プロセスに組み込んでいくことです。
Key learnings about AI-based design
ハンター・ダグラス社の事例は、組織が変革を促進する主要なプロセスとしてAIに取り組みつつ、同時に事業計画や設計において、従来の手法(たとえ、本来は「欠如(デフィシット)」に基づく変革と結びつけられてきた手法であっても)を活用できることを示しています。
AIの取り組みは、組織に肯定的な変革をもたらします。AIのプロセスを通じて、人々は組織の「ポジティブ・コア」――すなわち、組織が最高の状態にある時の集合的な知恵、知識、能力――を発見(Discovery)し、分析し、増幅させていきます。AIに基づく設計は、このポジティブ・コアを意識的かつ意図的に強化するものです。特に設計(Design)の段階においては、組織内外の過去のベストプラクティスと、既存組織のポジティブ・コアの双方を基盤として、体系的な変革が定着化されます。
プロセスの各段階において、システムを長期にわたって前進させるような肯定的なイメージを発見し、増幅させる取り組みに人々を巻き込んでいく必要がある。とりわけ設計(Design)の段階では、将来のシステムがどのような姿であり、どのように機能するのかについて、明確かつ詳細で、人々の心を惹きつけるイメージを言語化していくプロセスへと人々を導かなければならない。
AIに基づく設計(Design)プロセスは――その前段階である発見(Discovery)や夢(Dream)のフェーズと同様に――通常なら接点を持たないような多様な人々の対話を強固な基盤としています。例えば、「プロヴォカティブ・プロポジション」を策定する際には、様々な人々が一堂に会し、互いの物語を深く語り合い、過去の経験を振り返り、未来に向けた選択を行います。
少数の専門家による分析や助言ではなく、多くの人々による対話と関係性こそが、組織の方向性の変革を生み出し、それを維持していくための主要な原動力となるのです。
Adapting traditional approaches to fit evolving needs
ハンター・ダグラス社は、変化し続けるビジネスニーズに合わせて、従来型のデザイン・アプローチを絶えず適応させていくことができます。例えば、同社が戦略策定やプロセス・マッピングに用いた手法は、主流とされるものと非常に近いものでしたが、そこには3つの重要な違いがありました。まず、何が有効かについて徹底的な調査から着手したこと、そしてその調査で得られたデータが、その後のデザインに関する意思決定の判断基準となったことです。
設計プロセスそのものは、対話を重視し、ボトムアップ型で進められました。戦略、戦略的目標、あるいはプロセス・マップといった最終的な成果物は、それらを生み出した対話に比べれば二次的なものと見なされていました。そして、そうした成果物が組織内で提示されたり言及されたりする際には、必ず、それらの基盤となった物語や対話との関連性が明確に示されました。
結局のところ、ハンター・ダグラス社の事例が私たちに教えてくれるのは、
AIを活用した変革に尽力しつつ、もともとは「欠点や不足の解消」を主眼とする変革環境向けに考案されたツールをうまく活用することも可能だ、ということです。何も、有益なものまで一緒くたに捨ててしまう必要はないのです。
こうした、一見ささやかでも重要な視点の転換は、ビジネスの卓越性に直結する「ポジティブな変革」の文化を育み、持続させていくための私たちの力を高めてくれるのです。
2017: Hunter Douglas in hindsight: A twenty-year retrospective
先進的な実績と成果: 1997年からの5か年プロジェクトにより、離職率の激減、企業内大学の設立、数十万ドル規模の利益改善などを達成。組織文化変革にAIを導入したパイオニアとして、業界全体や次世代のリーダーに多大な影響を与えた。
実践を通じて得られた5つの主要な学び:
関係性の構築と基本原則の堅持: 物事を動かす本質は「誰が誰と何を語り合うか」という人間関係にある。前例のない取り組みでも、AIの基本原則に根ざして柔軟に実践(アート)することが成功の鍵となる。
他者の経験(シャドウ・コンサルティング)の活用: 経験の浅さを補うため、クーパーライダーやホイットニーら専門家による「シャドウ・コンサルティング(伴走・指導)」を受けながら実践した。
「始まり(初期のテーマ選定)」の重要性: 初期の調査で提示されたテーマが「人」の側面に偏り深みに欠けていたが、一回限りにせず実験と学習を継続したことで現場の熱意を引き出し、大きな変革につながった。
あらゆる立場の人への発言機会: リーダーから現場・組織の周縁にいる人々まで、全員に発言の場と対話の機会を提供することが重要。
組織内部の能力構築: 幹部から現場まで段階的かつ広範囲に研修(AI基礎研修やリーダーシップ・プログラム)を行い、社内に実践力を定着させた。
How did these and other learnings influence my development as a practitioner?
これらの学びは、実務家としての私の成長にどのような影響を与えたのでしょうか?
著者のアマンダ・トロステン・ブルームさんは語ります、
What was the long-term effect of our work?
私たちの取り組みがもたらした長期的な影響は何でしたか?
- 離職率は無視できるほどの低い水準にまで低下し、その状態が10年近く続きました。
- 同部門は、デンバー(2003年)およびコロラド州(2006年、2007年、2009年)において「働きがいのある企業」に選出されました。
- 従業員のエンゲージメントが高く、個々の強みを活かす企業文化に加え、充実した福利厚生(その多くはAI活用の取り組みから生まれたものでした)が人々を惹きつけ、長期にわたる定着につながりました。実際、取り組みの開始から10年が経過した後も、従業員たちは、ハンター・ダグラス社の企業文化を恒久的かつ前向きに変革する上でAIが極めて重要な役割を果たしたと語り継いでいました。
- 2008年の大不況が住宅産業(ひいては窓装飾品事業)に甚大な打撃を与えた際、同社は、従業員を「健全かつ良好な状態」に保てるような人員削減のあり方を模索することにしました。困難な状況下においても、AIの原則や実践――もはや「アプリシエイティブ・インクワイアリー」という手法そのものとは直接結びついてはいなかったものの――が、同社の意思決定に影響を及ぼしていたようです。
- 20年が経過した今もなお、ハンター・ダグラス社は、前向きな変革の実践と前向きな意図が結びついたときに何が可能になるかを示す、力強い事例であり続けていますAIの新たなフロンティアへと進むにあたり、私たちはこれからも好奇心と勇気を持ち、創造的なコラボレーションに対して開かれた姿勢であり続けたいと思います。

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