キャリアコンサルティングにおける「主訴」とは?が少し気になったのでまとめてみました。
ところで
そもそも用語が分野ごとに定義が違う場合はよくあります。ただ主に英語を日本語のカタカナで表記した場合が多いです。
例えば、トランジション(Transtion)は
辞書の英辞郎で引くと
- 〔形や状態などの〕推移、移行、変遷
- 〔政権などの〕移行期
- 《音楽》移行部[句]、推移◆二つの主旋律を結ぶフレーズ。
- 《音楽》〔一時的な〕転調
- 《物理・化学》遷移、転移
日経DIMEを参照すると
- ビジネス分野での「トランジション」はキャリアの転換を指す
- サッカーやバスケの「トランジション」は攻守の切り替え
- 動画編集の「トランジション」は場面転換を示すための効果(エフェクト)
- 医療・看護分野の「トランジション」は移行期医療
- IT分野での「トランジション」は本番環境に移行すること
- 環境分野での「トランジション」は持続可能な社会への転換を意味する
このように分野ごとで、その定義はかなり違います。どれが正しいとか違っているとかは無くて、その分野の世界でいるときの共通言語と理解するのは良いのではと思います。したがって分野の違う人と話すときには要注意です。
例えば上の「トランジション」はキャリアコンサルィングの世界でいうとビジネス領域のキャリアの転換とほぼ同意です。シュロスバーグの転機ですね。
本題の「主訴」
ところで本題の「主訴」は、同様に検索すると、主に医療用語として出てきます。
- デジタル大辞泉(小学館) 患者が医者に申し立てる症状のうちの、主要なもの。
- フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 患者の主たる訴え、症状。リスト
つまり「患者が自覚し、医師に伝える訴えの主要なもの」です。言い換えると患者の見る世界を意味する文脈を医師に伝えることと理解しました。
医師は、患者の診察のなかで、この主訴を聞き取り、診断し、治療方針を立てるようです。
百科事典マイペディア 診断【しんだん】:医師が患者を診察,検査して,疾患名を決定すること。診察は,問診といって,主訴,現病歴,既往歴,家族歴などを患者に問いただすことと
キャリアカウンセリングで診察に相当するのはカウンセリング、検査はアセスメント、疾患病を決定にぴったり当てはまるものは無いのがキャリアカウンセリングの特徴かもしれません。あえて言えばキャリアコンサルタントとしてあなたが考える、相談者の「問題」は何かになるかと思います。
主訴に相当するのは、「来談目的」あるいは「相談者がこの面談で相談したい問題」になるかと思います。また「現病歴,既往歴,家族歴」に相当するのは事前情報「年齢、性別、家族構成、職業及び簡単な職歴」です。
一例として、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(キャリ協)主催の技能検定2級の第31回の論述問題をとりあげます。なお回答部分は私の拙い回答案ですのであくまでも説明上の一例としてお考え下さい。
逐語の中で、
そしてこの後、コンサルタントは、患者の見る世界をもう少し詳しく知るための問いかけにより、相談者のさらに詳しい訴えがリストアップされていきます。
つまり、相談者が最初に語った「来談目的」に続いて、カウンセラーの問いかけにより、さらに詳しく話したのが「相談者がこの面談で相談したい問題」です。問いかけにキャリアコンサルタントの意図性はあったとしても、基本的には全て相談者が語った言葉であり、この時点では相談者の心の世界の見方と言えると思います。この「来談目的」+「相談者がこの面談で相談したい問題」が主訴に相当し、この段階では主観的であり、まだ他者の視点は入っていません。技能検定の論述ではこの「相談者がこの面談で相談したい問題」の部分が問1になります。おおむね主訴と言えると思います。
また問いかけの応答の中には、「会社がネット販売に力を入れるようになってからは、売上が順調に増えまして、営業部メンバーもほっとしました。」、「内定をもらった企業の最終面接で聞いたこと」などの出来事と、「年齢29 歳 男性 大学卒業後、食品メーカーに就職し、7 年目家族/父59 歳、母59 歳」などの「現病歴,既往歴,家族歴」に相当する基本情報も得られました。
続く問2の「キャリアコンサルタントとしてあなたが考える、相談者の「問題」は何か」ですが、ここまでの情報を元にした医療における診断に対応するものと言えます。カウンセリングで言うと、未だ相談者の気づいていない、そして解決につながる可能性の糸口となるキャリアコンサルタントの視点による相談者の問題点が提起されます。
今回の例で言えば、あくまでの回答ですが、
- 「直接、客先へ出向いて」のが向いている自分ならではの強みや能力の自己理解と適した職種の判らないまま同じ営業職で転職を進め「転職をしても同じことになるかも」の結果となった。
- 「客先に喜んでもらえて」と言いながら、世の流れであるDXやAIを活用する視点が欠け、お客様に喜んでもらう観点の営業ではなく、「面白みはないな」や「私がしたいような営業方法ではなくなる」と自分都合の世界で職業理解が留まっている。
- 会社の方針を確かめることなく「このまま今の会社に残ってもそのうち人員削減で部署異動をさせられるかも」と周りとのコミニュケーションを十分取ることなく、勝手に結論付けてしまっている。
まとめると
「来談目的」+「相談者がこの面談で相談したい問題」 = 主訴
「キャリアコンサルタントとしてあなたが考える、相談者の「問題」は何か」 ≒ 診断
ところで、もう一つの団体の日本キャリア開発協会(JCDA)のある講座(日本マンパワー)の講義資料では、
前半の「主訴とは」は、相談者が来談目的を語ったあとのキャリアコンサルタントの問いかけにより現れる主に訴えている「一連の語り」やその後の「移り変わることもある」部分に相当すると思われます。ここでまではキャリ協と主訴の定義は同じです。
また後者の「主に訴えていることとは」の「自己概念」の揺らぎや思いは相談者の認知を超えた部分をキャリアコンサルタントが記す「キャリアコンサルタントからみた相談者の心の世界」かと思います。ここがJCDAが大切にする自己概念を中心にした追記部分になるかと思います。そして講義ででは「経験代謝」と言うアプローチ方法(別な機会の取り上げます)でこの追記部分を重視しています。
このケースで自己概念を中心の視点で記載してみます。
- 「客先へ出向いて、営業する方が向いて」という営業へのものの見かたをしている相談者は、転職活動をしてせっかく決まった会社でもAI導入の話を聞き「転職をしても同じ」で、どこへ行っても「私がしたいような営業方法」が世の中から無くなるのではと心が揺れている。
- 「今の会社に残ってもそのうち人員削減で部署異動をさせられるかもしれない」と会社の方針を確かめることなく、営業職として頑張って「成績もよかった」自分を守りたい思いで安易に転職を考ている。
- 将来、私がしたいような営業方法」な働き方に合った職種や何処で実現できるかつまり業界も判らずおり、「違う職種で転職した方がいいのでしょうか。」とそれを明らかにしたい思いがあるがどうしたら良いか判らないでいる。
と追記部分を意識しながら書いてみると、協議会の診断的内容に比べるとうまく行かない原因の指摘と言うよりも、不安や心配を引き起こすメカニズムに着目している気がします。
以上で判ると思いますが、後者の「主に訴えていることとは」はやはり「相談者の心の世界」をキャリアコンサルタントから見た「キャリアコンサルタントの心の世界」を表していると思います。この後のプロセスでこの見かたが正しいかを相談者に確かめる合意形成を経てて、初めて「相談者の心の世界」と言えると思います。
日本キャリア開発協会の論述試験には、キャリア協議会の「相談者がこの面談で相談したい問題」は無く、問い
3 で「キャリアコンサルタントとして、あなたの 考える 相談者の 問題と思われる点 を、具体的な例をあげて解答欄に記述せよ 。」とあります。そこにはいわゆる主訴の中の「主に訴えていることとは・・・」のキャリアコンサルタントの視点を問う問題となっていると思われます。
以上からJCDAの主訴は下記の意味とおもれます。
主訴 = 「相談者がこの面談で相談したい問題」+「キャリアコンサルタントとしてあなたが考える相談者の問題」
JCDAの論述問題では前者は問わずに後者(下線部)を問3で取り上げています。自己概念の視点でキャリアコンサルタントとしてあなたが考える相談者の「問題」を捉えるのは決して不自然な事ではないと思います。この相談者を患者と言うよりもキャリアコンサルタントと同等に位置づけるロジャーズの相談者中心主義のアプローチはキャリア協議会の問2の回答に用いても良いのではと個人的に感じています。
以上で
ここで、ちょっと気になることが出てきます。
試験はそれぞれの団体で受けるので良いですが、その後にキャリアコンサルタントとして活動する時に基本用語である主訴はと聞かれたら、どうするのでしょう?二つの団体「主訴」の定義がすこし異なる点は気なるところです。
ご意見やご指摘あれば是非お願いいたします。
コメント